コールドプレイの『A Head Full Of Dreams』より、Up&Upの歌詞を和訳してみました。
このアルバムやこの曲についてのインタビューを読んだり聞いたりした上で、こういうことが言いたかったのかな?と私が勝手に考えていることを自由に訳しています。(意訳し過ぎていた部分少し修正しました)
クリス・マーティンとウィル・チャンピオンの解説と共にどうぞ。『A Head Full Of Dreams』の各曲解説はこれが最後です。他の曲の解説はこちらから。
Up&Upの歌詞は、ジョン・スタインベックの『怒りの葡萄』をはじめ、沢山の本から影響を受けているそうです。
クリス:ジョン・スタインベックの『怒りの葡萄』を読んだことから始まった。
そして僕にとって、自分たちを定義付けるような曲になったと思っているんだ。Coldplayの曲の中から自分の気持ちを要約している曲を一つだけ選ばないといけないとしたら、この曲になる。僕が人生をどのように感じているかについての曲なんだ…と思う。Star 94.1のインタビュー(2016.04.05)より
最初は完全に『怒りの葡萄』から取られていますね。
fixing up a car to drive in it again
再び走れるように車を直そう
searching for the water hoping for the rain
水を探し、雨を祈り求めて
up and up, up and up
上へ、もっと上へ
『怒りの葡萄』のあらすじは…
怒りの葡萄〔新訳版〕(上) (ハヤカワepi文庫) | Amazon
一九三〇年代、アメリカ中西部の広大な農地は厳しい日照りと砂嵐に見舞われた。作物は甚大な被害を受け、折からの大恐慌に疲弊していた多くの農民たちが、土地を失い貧しい流浪の民となった。オクラホマの小作農ジョード一家もまた、新天地カリフォルニアをめざし改造トラックに家財をつめこんで旅の途につく― 苛烈な運命を逞しく生きぬく人びとの姿を描き米文学史上に力強く輝く、ノーベル賞作家の代表作、完全新訳版。
怒りの葡萄〔新訳版〕(下) (ハヤカワepi文庫) | Amazon
祖先が開拓した故郷の土地を捨て苦難と困窮の旅のすえ、約束の地カリフォルニアへとたどり着いたジョード一家。そこで迎えたのは、美しく豊かな果樹園や綿畑と、敵意にさらされながら低賃金のわずかな仕事を奪いあう過酷な日々だった…。歴史の荒波のなかで資本主義に翻弄される人びとの苦境を浮き彫りにし、時代を越えてなお世界じゅうで衰えぬ評価を受けつづける不朽の名作。ピュリッツァー賞受賞。映画化原作。
ジョン・フォード監督、ヘンリー・フォンダ主演で映画化もされています ⇒ 怒りの葡萄(スピルバーグが再映画化するという話もあったけど、どうなったのかな?)
本の中のジョード一家は貧民キャンプを転々とし、テント生活をしています。なんとかその日の仕事を見つけられても、稼ぎはほんの僅かな食事に全て消えてしまいます(working meal to meal)。
down upon the canvas, working meal to meal
食うために必死に働き、テントに倒れ込む
waiting for a chance to pick your orange field
オレンジ畑での収穫の仕事を待っているんだ
up and up, up and up
上へ、もっと上へ
なぜオレンジ畑が出てくるのかというと、それが一家がカリフォルニアに来た理由。
カリフォルニアは夢のような土地でオレンジ畑がたくさんある、果物の収穫の仕事がいくらでもあり高給が保証されている、そのようなチラシを信じてオクラホマからはるばるやってきたのです。
しかし実際に待っていたのは、過剰な労働力を中西部から集め賃金をカットするという搾取の構造。彼らは差別と迫害の対象でもありました。
see a pearl form, a diamond in the rough
形作られていく真珠やダイアモンドの原石が見えるかい?
see a bird soaring high above the flood
大洪水の上を空高く舞い上がる鳥が見えるかい?
it’s in your blood, it’s in your blood
それは君の血の中に流れているんだよ
underneath the storm an umbrella is saying
嵐の中で傘が教えてくれる
sitting with the poison takes away the pain
毒を受け入れれば痛みは消え去ると
up and up, up and up it’s saying
上へ、もっと上へ
本の後半で移住民たちを洪水が襲います。子ども達は飢えて泣いているのにこれから3ヶ月はどんな仕事もないぞ… そんな恐怖から絶望的な怒りが鬱積していきます。
それでも、同じ境遇の者同士で助け合い、なんとかやっていく (We’re going to get it together somehow) のです。
ジョード家ではなんとかしようと男たちが奮闘する一方、新しい命が生まれようとしています。その結果がどうなろうと、問題に立ち向かい、生きていかなくてはならない。
歌詞にある「形成途中の真珠」や「ダイアモンドの原石」は、芯に秘められた人間の強さや美しさ、そして洪水の上で飛ぶ「鳥」は信念や希望を表しているようにも思えます。
「鳥」は「A Head Full Of Dreams」にも「Birds」にも「Amazing Day」にも登場する、アルバムの象徴的な存在。
「A Head Full Of Dreams」の歌詞の元となったアッタールの“The Conference of the Birds(鳥の言葉/鳥の会議)” という詩についてクリスはこう説明しています。
鳥の群れが答えや自分より大きい存在を探すんだけど、最終的に自分達に必要な物は自分達の中にあったと気づくというストーリーなんだ。
'A Head Full Of Dreams' Coldplayによる作品解説和訳(影響を与えた詩とブライアン・イーノからの教え)
これがUp&Upにも繋がって、全て "it’s in your blood" なのかもしれないですね。
ドラムのウィル・チャンピオンはUp&Upについてこんなふうに話していました。
ウィル:今まで学んできたこと全てが集約されたもの。バンドを始めた頃影響やインスピレーションを受けたノエル・ギャラガー、それからビヨンセはモダンなものをもたらしてくれた。
試練を受け入れ、それを乗り越え、困難を耐え忍ぼうとすること。バンドとしての人生のいいメタファーになっている。
Telekom Street Gigの前のインタビューより
we’re going to get it get it together right now
僕らはきっとうまくやれる
going to get it get it together somehow
どうにかうまくやって
going to get it get it together and flower
花を咲かせるんだ
oh oh oh oh oh oh
we’re going to get it get it together I know
きっとうまくいく
going to get it get it together and flow
流れにのって
going to get it get it together and go
立て直して進んでいくんだ
up and up and up
上へ、もっと上へと
ちなみに『怒りの葡萄』の最後のシーンが衝撃的で涙が出るのですが、Hymn For The Weekendの "drink from me" ってこういうことだったのか!?とハッとしました。状況は全然違うのだろうけど…。(本のネタバレ?になるので詳しくは書きませんが、気になる方はお尋ね下さい)
『怒りの葡萄』の他、この曲に影響を与えた本について。
クリス:たくさんの本を読んだことから出来た曲。それらは世界を秩序立てて理解するのに本当に役立ったんだ。
ヴィクトール・フランクルの『夜と霧』や、Sheryl WuDunnとNicholas Kristofの『Half the Sky』、ルーミーの詩…
世界と苦しみについて、また、全てをどのように対処していくのか、どのように世界が良い方向に前進するのかについて語っている、そういう沢山のものを読んだ後に思いついた。僕が少し落ち込んでいたとしたら、この曲が大丈夫だと思わせてくれるんだ。そうだ、こういう風に人生を見つめようって。
これが今の僕の世界観なんだ。
他の人にとってどういう意味を持つのかは分からないけど、僕にとっては頭をリセットしてくれるような曲なんだよ。KCSNのインタビュー (2016.05.21)より
lying in the gutter, aiming for the moon
どん底に落ちて、不可能なことを望み
trying to empty out the ocean with a spoon
スプーンで海の水を空っぽにしようとしているよう
up and up, up and up
それでも上へ、もっと上へ
how come people suffer how come people part?
人はなぜ苦しみ、なぜ離れ離れになるんだろう?
how come people struggle how come people break your heart?
なぜ闘い、なぜ心を引き裂くんだろう?
break your heart
君の心を…
yes I want to grow yes I want to feel
そう、僕は成長したい、感じたい
yes I want to know show me how to heal it up
知りたいんだ、癒やす方法を教えてほしい
heal it up
癒やす方法を
see the forest there in every seed
一粒の種の中に森が見える
angels in the marble waiting to be freed
大理石の天使たちは解き放たれるのを待っている
just need love just need love
ただ愛が、愛が必要なんだ
when the going is rough saying
苦しい状態の時にはね
we’re going to get it get it together right now
僕らはきっとうまくやれる
going to get it get it together somehow
どうにかうまくやって
going to get it get it together and flower
花を咲かせるんだ
oh oh oh oh oh oh
we’re going to get it get it together I know
きっとうまくいく
going to get it get it together and flow
流れにのって
going to get it get it together and go
立て直して進んでいくんだ
up and up and up
上へ、もっと上へと
クリスはこんなことも話していました。
僕たちはみんな試練にあうし、どう反応するのか選択しないといけないけど、僕の経験では明るい面を見るのが一番いいんだ。楽観的なことを見つけられるよう努力するんだよ。
そういうことを理解することについての曲なんだ。Star 94.1のインタビュー(2016.04.05)より
それが表れているのがここかな?
and you can say what is, or fight for it
君は選べるんだ。こういうものだと受け入れるのか、それとも勝ち取るために戦うのか
close your mind or take a risk
心を閉ざしてしまうのか、それとも思い切ってやってみるのか
you can say it’s mine and clench your fist
君は選べるんだよ。「自分のものだ」と言って拳を握りしめるのか
or see each sunrise as a gift
それとも毎日昇る朝日を贈り物だと思うのか
we’re going to get it get it together right now
僕らはきっとうまくやれる
going to get it get it together somehow
どうにかうまくやって
going to get it get it together and flower
花を咲かせるんだ
oh oh oh oh oh oh
we’re going to get it get it together I know
きっとうまくいく
going to get it get it together and flow
流れにのって
going to get it get it together and go
立て直して進んでいくんだ
up and up and up
上へ、もっと上へと
we’re going to get it get it together right now
僕らはうまくやっていく
going to get it get it together somehow
どうにかうまくやって
going to get it get it together and flower
花を咲かせるんだ
oh oh oh oh oh oh
we’re going to get it get it together I know
きっとうまくいく
going to get it get it together and flow
流れにのって
going to get it get it together and go
立て直して進んでいくんだ
up and up and up
よくなる、きっとよくなるよ
oh-oh oh, oh-oh oh oh oh oh
fixing up a car to drive in it again
再び走れるように車を直そう
when you’re in pain
苦しくても
when you think you’ve had enough
もうたくさんだと思っても
don’t ever give up
あきらめないで
don’t ever give up
けっしてあきらめないで
believe in love
愛を信じよう
クリス:どんどん大きくなって、世界平和のアンセムのようなものになったけど、もともとはとてもパーソナルなところから生まれたんだ。
The Telegraphより
レビュー:Up&Up
ミュージック・ビデオ:Up&Up (Official video) ←シングルバージョンなので途中省略されています。